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技術関係レポート 「PLC更新 ~三菱PLC~」

1. はじめに

今回の技術関係レポートでは私が行った三菱PLCのAシリーズをQシリーズへのリニューアルする

案件での経験を踏まえ、手順や気をつけるべきポイントなどをご紹介させて頂きます。

2. PLC更新について


PLCは汎用性や信頼性の高いことで知られています。しかし、いくら信頼性が高いと言っても、経年劣化や外的要因によって壊れてしまうことはあります。壊れてしまった後に代替品を用意しようとしても、製品が生産終了・販売終了になってしまっていたら、どうすることもできません。
PLCは工場に入っていることが多く、PLCが止まると、生産ラインの停止を招き、生産している製品が出荷できないということにつながりかねません。PLCも日々新しい製品が出ており、新製品の登場に伴い、旧機種は生産停止となり、購入ができなくなってしまいます。
PLCが壊れ、「購入したい。」と思った時に「購入できない。」とならないように、壊れる前に数年に一度、PLCを更新する必要があります。
また、時代の進化と共にPLCはより高性能、よりコンパクトになるので、処理の高速化や、設置スペース・制御盤の小型化が可能になっており、PLCを更新することで制御盤の縮小化やスペースができるので、有効活用が可能です。

3. PLC更新の流れ

PLCを更新する上では大きく分けて、以下のような作業が必要です。

3.1 既設システム(ハード)構成確認・選定

既設システムのハード構成を確認、新しいハードを選定します。基本的には後継機種がありますので、後継機種を選定していきます。三菱PLCであればリニューアル機器選定ツールというものがあり、既設システム構成を入力するだけで新しい機種の選定をしてくれるツールがあります。詳しくはURLをご確認ください。
( http://www.mee.co.jp/sales/fa/meefan/parts/selection/renewal_tool/index.html )

既設システムのハード構成を確認する上で気にするところとしてはどこまで配線やコネクタ、端子台、取り付け穴が流用できるかというところです。
配線し直しとなると、配線の取り外し、配線の取り付けを人手でやることになりますので、コストがかかります。さらに人手での作業となる為、ミスが発生する可能性があります。その為、再配線を行う際は全点チェックを行う必要があります。
端子台の視点で見た場合のリニューアル方法として、大きく分けて幾つかの方法がありますのでそちらをメリット、デメリットと共にご紹介いたします。

A) Qシリーズへ再配線する

Aシリーズの配線されている端子台から全て配線取り外し、新たにQシリーズの端子台に取り付ける際のメリット、デメリットを記載します。
この方法のメリットは設置スペースの縮小化です。2章でも記載しましたが、PLCも時代の進化と共にコンパクトになってきています。Qシリーズの縦サイズはAシリーズの半分以下のサイズになりますので、ベース1枚に収まるサイズであれば圧倒的にサイズ縮小が可能です。
この方法のデメリットは配線コストがかかることです。本章の始めにも記載しましたが、再配線を行うと配線コスト、さらには配線切替後の配線ミスの確認、配線後の確認にもコストがかかり、あまり現実的とは言えません。

B) AnSサイズ版Qラージユニットを使う

AnSサイズ版Qラージベースユニット(以下Qラージベースユニットとします )という製品があります。

QラージベースユニットはAnSシリーズのサイズと同じベースサイズになりますので、既設の取付穴を利用して、Qラージベースユニットを装着します。

Qラージユニットを選定するメリットとして、I/Oスロットの幅がAnSシリーズと同一のため、変換アダプタ(三菱電機エンジニアリング株式会社製リニューアルツール)を用いて、既設のAnS/QnASシリーズの端子台を配線変更なしで流用する際に、隣のユニットとの配線の干渉を軽減できます。

C) A⇒Q変換アダプタを使う

その他、変換アダプタという製品があります。これはQシリーズのユニット幅で縦サイズのみAシリーズというものです。A⇒Q変換アダプタを使うメリットとしては端子台が基本的には付け替えが可能なことです。また、ラージユニットでは対応していないベーシックモデルCPUの対応が可能なことです。デメリットはユニットの幅がQシリーズのサイズなので端子台の設置は確認が必要なことです。
No.
リニューアル方法
メリット
デメリット
1 Qシリーズへ再配線するスペースの縮小化配線・試験コストが増大
2 AnSサイズ版 Qラージユニットを使う既設のAnS/QnASシリーズシーケンサをベースユニットごと取り外し、既設の取付け穴を利用して、AnSサイズ版Qラージベースユニットを装着できます。端子台の付け替えのみで対応が可能AnSサイズ版シリーズと同じサイズの取り付けスペースが必要になる
(ベース増設の際はさらにスペースが必要になる)
3 A⇒Q変換アダプタを使う価格がラージユニットに比べると安価
ベーシックモデルCPUの対応が可能
ユニット幅はQシリーズなので幅は縮小できる
端子台の付け替えのみで対応が可能
(※ユニット幅、配線領域が小さくなっていますので確認が必要)
ユニット幅、配線領域が小さくなっていますので端子台の付け替えが出来ない可能性がある
表1. 構成選定メリット・デメリット

3.2 プログラム変更はどの程度あるのか?

次に検討すべきポイントとなるのが、どこまでプログラム変更が必要になるかです。AシリーズからQシリーズにリニューアルを行う上での、ソフト変更は基本的には不要です。リニューアル前のAシリーズのプロジェクトをQシリーズへ自動で変換してくれます。しかし、自動で出来ないところもあります。自動で変換が出来ないところは特定のデバイスに変換されてしまいます。
特定のデバイスに変換された箇所に関してはプログラムの見直しが必要になります。特定のデバイスに変換されてしまうのは主に以下のようなところです。
○特殊リレー

AシリーズではM9000~M9255/D9000~D9255が使われていますが、QシリーズではSM0~SM1799/SD0~SD1799、SB0~1FF/SD0~1FF(16進)が使用されています。Aシリーズで用意されている信号はQシリーズにも基本はありますが、完全一致でないものもありますので、マニュアルで確認が必要になります。  SM/SDデバイスは自己診断リレーやバッテリーなどのPLC自信のエラー状態が格納されており、SB/SWはMELSECNETなどのリンク状態などが格納されています。

○特殊ユニット入出力リレー

AシリーズとQシリーズでは入出力リレーのアドレスが違う他、使い方にも差がありますので、マニュアルを確認してソフト修正の必要があります。  アナログユニットであれば、性能向上により分解能があがっています。分解能があがることによりレンジ変換の処理も見直しが必要です。

○特殊ユニットバッファメモリ

入出力リレー同様にバッファメモリもAシリーズとQシリーズではアドレスや使い方が違う為、マニュアルを確認して適切にソフト修正の必要があります。 機能や使い方には大きな変更はなくても、アドレスは変わっているので変更は必須です。

例えば、Aシリーズの”AJ71UC24”をQシリーズの”QJ71C24N”に置き換えた際を例に挙げますと以下のように違いがあります。
アドレス
AJ71UC24(Aシリーズ)名称QJ71C24N(Qシリーズ)名称
X00 受信完了CH1送信正常完了
X01 受信データ読み出し要求CH1送信異常完了
X02 グローバル信号CH1送信処理中
X03オンデマンド実行中CH1受信読出し要求
X04計算機リンクユニット伝送シーケンス状態CH1受信異常検出
X05計算機リンクユニット伝送シーケンス状態
X06計算機リンクユニット伝送シーケンス状態CH1モード切換え
X07計算機リンクユニットレディ信号CH2送信正常完了
X08CH2送信異常完了
X09モード切り換え完了CH2送信処理中
X0ACH2受信読出し要求
X0BCH2受信異常検出
X0C
X0DウォッチドッグエラーCH2モード切換え
X0ECH1エラー発生
X0FCH2エラー発生
X10モデム初期化完了
X11ダイヤル中
X12回線接続中
X13初期化回線接続失敗
X14回線切断完了
X15報知正常完了
X16報知異常完了
X17フラッシュROM 読出し完了
X18フラッシュROM 読出し要求
X19フラッシュROM 書込み完了
X1ACH1グローバル信号
X1BCH2グローバル信号
X1Cシステム設定デフォルト完了
X1D通信プロトコル準備完了
X1EQシリーズC24レディ
X1Fウォッチドッグタイマエラー
表2. ”AJ71UC24”と”QJ71C24N”入力リレー

名称は違いますが、AJ71UC24のX00とQJ71C24NのX03(チャンネル2を使う場合はX0A)は同じです。 同様にAJ71UC24のX07とQJ71C24NのX1Eも同じです。
その為、ここではX00⇒X03(チャンネル2を使う場合はX0A)、X07⇒X1Eにそれぞれ置換する処理が必要になります。
またQJ71C24Nに置き換えたことで受信異常も取れるようになりましたので、受信異常時の処理も追加が必要になります。
同様に出力リレーも変わっており、Y11⇒Y00(チャンネル2を使う場合はY07)への置換が必要になります。

その他、送受信時のバッファメモリも変更されておりますので、そこも変更が必要になります。
AJ71UC24の送信バッファは001~07F、受信バッファは081~0FFですが、QJ71C24Nでは送信バッファは401~5FF(チャンネル2を使う場合は801~9FF)、受信バッファは601~7FF(チャンネル2を使う場合はA01~BFF)となり、こちらもプログラム上のデバイスを変更する必要があります。
バッファメモリには終端文字の設定やパリティビット、プロトコルなどの設定もあるので、そちらもマニュアルを確認して適切に変更が必要です。

○命令

基本的には自動で変換されますが、ASC命令や専用命令など変換されないものもあります。変換されないものに関してはマニュアルを確認してソフト修正の必要があります。 私が対応した案件ででた自動変換されないものとしては以下のようなものがありました。

Aシリーズ命令 Qシリーズ命令 説明
ASC $MOV 文字列転送
LEDA DATERD DATERD 時計データ読出
LEDA DATEWR DATEWR 時計データ書込
LEDA BINHABINHA16Bit BIN → 16進ASCII変換
LEDA DVALDVAL数値文字列 → 32Bit BIN変換
LEDA HABINHABIN16進ASCII → 16Bit BIN変換
LEDA LENLEN文字列の長さ検出
LEDA VALVAL数値文字列 → 16Bit BINデータに変換
表3. A⇒Q自動変換命令例
また、上記のようなプログラムの自動変換できなかった部分をサポートしてくれるツールがあります。
(http://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/download/software/detailsearch.do?mode=
software&kisyu=/plca&shiryoid=0000000009&lang=1&select=0&softid=1&infostatus=
1_1_1&viewradio=0&viewstatus=01_0_0_01_0&viewpos=470_0 )
このサポートツールを使用することで自動変換できなかった箇所が特殊ユニット単位でまとめられるので、マニュアルをまとめて確認することが出来たり、特殊デバイスであれば、コメントも表示されますので、調べやすくなります。ただ、あくまでもサポートをしてくれるだけですので、マニュアルで確認は必須です。

3.3 ネットワーク構成はどのようになっているか?また、どのネットワークへリニューアルするのか?

次に検討すべきポイントとなるのが、ネットワークの構成をどうするのか?です。まず既設システムがどうなっているのか?リニューアル後のネットワークはどうなるのか?を考える必要があります。
CC-LINKやDeviceNetなどのネットワークであれば後継機種を選定することで、ユニットの設定を変える程度でよいかと思います。
しかし、三菱PLCで構成されたネットワークの場合は、MELSECNETを使用していることが多いと思います。私が対応した案件もMELSECNETを使用しており、AシリーズのCPUが複数台で構成されたMELSECNET(Ⅱ),/Bというネットワークが組まれていました。それを新たにQシリーズのMELSECNET10/Hに変更しました。
MELSECNET(Ⅱ),/BからのMELSECNET10/Hにするにあたり一番のネックとなったのが、各局送信範囲の設定についてです。MELSECNET(Ⅱ),/Bでは各局送信範囲が前半、後半と1局で2つの領域を確保できたのですが、MELSECNET(Ⅱ),/Bでは1局に対し1つの領域しか確保できません。
その違いについてはリフレッシュパラメータの設定で対応しました。
まず、送信範囲の考え方としては図1の”更新後Qシリーズ送信範囲”の設定とはMELSECNET10/Hの設定で管理局と呼ばれるマスタPLCのみが持っている設定になります。次に”リフレッシュパラメータ”は同じネットワーク内の各PLCがそれぞれ持っている設定で、全体の設定(更新後Qシリーズ送信範囲)からPLCにどのように落とし込むかという設定になります。
○”更新後Qシリーズ送信範囲”

送信範囲の設定で前半と後半をまとめて1つの領域を確保します。
局番1:000~1FF(前半:000~0FF、後半:100~1FF)
局番2:200~3FF(前半:200~2FF、後半:300~3FF)
局番3:400~5FF(前半:400~4FF、後半:500~5FF)

○”リフレッシュパラメータ”

1点単位から細かく、設定が可能で、”更新後Qシリーズ送信範囲”のデバイスを自分のどのデバイスに転送するかの設定になります。
転送1:000~0FF ⇒ 000~0FF
転送2:100~1FF ⇒ 300~3FF
転送3:200~2FF ⇒ 100~1FF
転送4:300~3FF ⇒ 400~4FF
転送5:400~4FF ⇒ 200~2FF
転送6:500~5FF ⇒ 500~5FF

図1. 送信範囲とリフレッシュパラメータ
上記のように設定することで、既設のデバイスはそのままで対応が可能です。

4. 気をつけておくべきポイント

気をつけておくべきポイントを2点紹介します。

4.1 16点ユニットを8点ユニットに分けることでの注意点

16点ユニットを8点ユニットにリニューアルする際の注意点を記載します。例えばAY10Aの16点ユニットをリニューアルする際に、ラージユニットを使えず、QY18Aを2枚にリニューアルする時に注意する必要があります。
PCパラメータのI/Oユニットの先頭アドレスの設定は16点単位という決まりがあります。Aシリーズで16点の出力ユニットの先頭アドレスを”0”と設定していたとすると”Y00~Y0F”までが出力のアドレスとなります。Qシリーズの8点ユニット2枚に分けた場合も占有点数は16点なので、”Y00~Y0F”までは1枚目が占有します。その為、2枚目のユニットは”Y10~Y1F”の領域に取るか、もしくは空いているアドレスに取るしかありません。また、空きアドレスを設定した後にプログラムで使用しているアドレスの置換、置き換えが必要になります。
注意項目 Aシリーズ(AY10A) Qシリーズ(QY18A 1枚目)Qシリーズ(QY18A 2枚目)
出力点数 16点 8点8点
占有点数 16点 16点16点
先頭アドレス
(実際のアドレス)
00(Y00~Y0F) 00(Y00~Y07)10(Y10~Y17)
プログラム処理なしなしY08~Y0FをY10~Y17に置換が必要

4.2 スキャンタイムが早くなることの注意点

AシリーズからQシリーズに置き換えることで、CPUのスキャンタイムは格段に早くなります。10分の1程度の速度になります。しかし、速度改善されることで気にしなくてはならないこともあります。

A) 1パルス出力

1パルスの出力時間はスキャンタイムと同じになります。その為、Aシリーズの時は仮に20[ms]だったとすると、Qシリーズになることで2[ms]くらいになり、基本的にはパルスでの出力はしませんが、もし、外部の装置にパルス出力していた際は出力先の装置が2[ms]で取れるかどうかを考える必要があります。取れるかどうかわからない場合は、出力でパルスはやめて一定時間出力するようにする、もしくはコンスタントスキャンの設定をしてスキャンタイムをAシリーズと同じ時間とするといった必要があります。

B) 入力ユニット・アナログユニット

入力ユニットやアナログユニットの更新をした際には、入力信号のチャタリングにも気をつける必要があります。入力信号の立ち上がりの際に、最初の数[ms]はチャタリングしてその後ONとなる信号であることがあります。その場合にスキャンタイムが遅いAシリーズの時は、チャタリングしている部分は取れずに、その後ONしている状態の信号を取るようになるので、問題はありませんが、スキャンタイムが早いQシリーズでは、ONする前のチャタリングの状態の際も取れてしまい、複数回ONするといった動きになることがあります。このような場合は、入力のチャタリング防止用にタイマを設ける必要があります。タイマを使い、一定時間入力があることを確認して、入力信号をONとするような処理を組む必要があります。
また、アナログユニットでは、PID制御していた際に気をつける必要があります。PID制御は現在値から目標設定値まで徐々に出力値を上げていくような制御になります。スキャンタイムが早くなることで、PID制御の演算回数が上がり、オーバーシュートしてしまうこともあります。このような場合は、PID制御のサンプリングする周期の幅を広げる必要があります。

C) 通信ユニット

その他、私が経験したところでは、通信ユニットでうまくいかないことがありました。その時は、PLCから通信機器にリクエストのメッセージを送信し、レスポンスが機器から返信されるという通信でした。その通信相手の機器がレスポンスを返してから、数十[ms]の間はPLCからの送信メッセージが受け取れないという動きになっていました。その解決策としてコンスタントスキャンを入れることで、相手機器からレスポンス後のPLCの送信メッセージもコンスタントスキャン分を、ウェイトとして持たせることができ、PLCからの送信メッセージが受け取れるようになりました。

5. おわりに

今回、紹介したことは問題になりそうなところの一部です。これらの他にも懸念すべき事項はたくさんあり、ユニット単位で見るとまだまだ気にするところは多くあります。AシリーズからQシリーズへのリニューアルは小規模な構成であれば、ハードを購入し、プロジェクトを変換するだけというものになることもあります。しかし、大規模システムになればなるほど、複雑なネットワーク構成であったり、特殊ユニットが多く使われていたりするので安易に考えると大失敗に繋がります。どこまでは流用が可能なのかの判断もマニュアルを読み込み、対応する必要があります。実作業は少ないかも知れませんが、確認事項が多いというのが、リニューアルの大変さだと思います。

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